【2025年11月更新】生命保険と配偶者居住権の違い|60代夫婦の相続使い分け早見表
更新:
執筆者山中 忠 (FP1級・証券外務員一種保持)

配偶者居住権
生命保険 相続
非課税枠 500万円
小規模宅地等の特例
相続登記 義務化
60代夫婦 相続
目次
課題提起:60代夫婦の「現金」と「住まい」問題
60代の夫婦にとって、相続後に残すべき資産は大きく「現金」と「住まい」に分かれます。相続時の現金不足は葬儀費用・当面の生活費・納税資金の手配を難しくしがち。一方、住まいは高齢の配偶者の生活基盤です。そこで活用候補になるのが、生命保険と配偶者居住権です。生命保険は死亡後に迅速に現金を作り、非課税枠500万円×法定相続人で税負担を抑えられます。一方の配偶者居住権は相続法改正で整備された「住み続ける権利」で、評価額を分けて圧縮できる仕組みがあります。本稿は2025年11月時点の最新制度・一次情報を踏まえ、両者の違いと使い分けを実務目線で解説します。
この記事でわかること
- 1生命保険の相続税上の扱いと非課税枠の正しい使い方(国税庁の一次情報リンク付き)
- 2配偶者居住権の成立・評価の要点と最新の評価実務(国税庁No.4666の根拠)
- 3小規模宅地等の特例(330㎡まで80%減)と居住継続の要件
- 4相続登記の義務化(3年以内)と過料の仕組み、段取りの作り方
- 5生命保険契約照会制度の最新情報(2026年4月からの料金改定)と使い方
生命保険の相続扱いと税の基礎
生命保険金は、受取人に指定された人が請求・受領します。民法上は受取人の財産として扱われ、遺産分割のテーブルに載らないため、現金を迅速に確保できるのが強みです。税務では「みなし相続財産」として相続税の対象ですが、法定相続人が受け取る場合は非課税枠500万円×法定相続人の数まで非課税です。制度の根拠と具体の計算は国税庁のタックスアンサーに明記されています。(No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金)
孫を受取人にすると税はどうなる?
孫に保険金を渡したいのですが、税金は不利になりますか?
孫は法定相続人に含まれないため非課税枠は使えず、相続税額の2割加算の対象になりやすいです。国税庁の一次情報で定義が確認できます。(No.4157 相続税額の2割加算)
孫を受取人にするなら金額を抑える、代替として生前贈与や教育資金贈与の活用を検討するのが安全です。
配偶者居住権の仕組みと最新実務
配偶者居住権は、被相続人の自宅に配偶者が終身または一定期間住み続けられる権利です。所有権から切り離された権利のため譲渡はできませんが、建物の所有権(負担付所有権)は他の相続人に承継できます。評価は「居住権」「負担付所有権」に分けて税務上計算され、実務の評価方法は国税庁のタックスアンサーに整備されています。(No.4666 配偶者居住権等の評価)
登記・評価:数字でイメージを掴む
評価は耐用年数や法定利率に基づく現在価値で算定されます(No.4666参照)。例えば建物・土地合計4,200万円の自宅で、75歳の配偶者が終身の配偶者居住権を取得するケースでは、居住権約1,500万円/負担付所有権約2,700万円というように分かれるイメージです。配偶者は住み続けられ、子などの相続人は負担付所有権を承継します。なお、配偶者居住権は譲渡不可、修繕や固定資産税等の維持費は原則居住権者の負担となる点に留意しましょう。
現金は生命保険で作る、住まいは居住権で守る。資産の性質に合わせて「役割分担」すると、争いも負担も小さくできます。
使い分けの軸:生命保険vs配偶者居住権
生命保険は「即時現金化」「非課税枠」「遺産分割の外」という特徴があり、代償分割や納税資金づくりに有効です。配偶者居住権は「住み続ける権利」「評価圧縮」「共有トラブル防止」に効きますが、現金は生まれません。したがって、相続後すぐの資金需要が読める世帯は生命保険の比重を高め、住み替え困難・持ち家愛着の強い世帯は居住権を前面に出すのが基本の考え方です。
家計タイプ別の向き・不向き
- 1現金が少なく自宅が主財産:生命保険で子の取り分を作り、配偶者居住権で住まいを守る「併用」が向く
- 2子は別居・実家をすぐ現金化する必要なし:配偶者居住権を前面に、預貯金は配偶者中心で
- 3前妻の子が相続人:配偶者居住権で住まいを確保、保険で前妻の子に一定の現金を用意して紛争予防
- 4相続税申告が見込まれる:非課税枠と評価圧縮を合わせ、納税資金は保険で確保する設計が現実的
事例①:自宅が主財産で現金不足のとき
自宅3,000万円、預金300万円。妻は住み続けたい、子は取り分ゼロは避けたい——。配偶者に居住権、子に負担付所有権を割り当てれば評価上は配偶者・子それぞれが一定額を取得した形にできます。加えて死亡保険金1,000〜2,000万円を子(または配偶者)に設定し、非課税枠500万円×法定相続人を活用すると税負担を抑えつつ現金を創出できます。根拠の非課税枠は国税庁の一次情報が明快です。(No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金)
事例②:子は別居・実家売却は急がないとき
子が実家に住む予定がなく、売却を急がないなら配偶者居住権が機能します。負担付所有権は市場流通性が低い一方、配偶者の生活は安定します。生活費・修繕費などの当座資金は生命保険で配偶者を受取人に設定し、請求後すぐ使える現金を確保するのが実務的です。
事例③:前妻の子が相続人の複雑ケース
配偶者と血縁のない相続人(前妻の子)がいる場合は対立が生じやすい局面です。配偶者居住権で住み続ける権利を確保し、前妻の子には生命保険で一定額の現金を用意することで感情面と経済面のバランスを取りやすくなります。孫や兄弟など法定相続人以外の受取指定は、非課税枠が使えず2割加算の対象となる点に注意(詳細は(No.4157 相続税額の2割加算))。
併用の実務:小規模宅地等の特例(80%減)と居住継続の確認
自宅の土地について、小規模宅地等の特例の「特定居住用宅地等」は最大330㎡まで評価額を80%減額できます。配偶者居住権の建物の敷地を含む土地でも、要件を満たせば面積按分を用いて適用の計算が可能です(No.4124の記載に敷地利用権の扱いと面積算定のルールあり)。制度の一次情報はこちら。(No.4124 小規模宅地等の特例)
相続登記はいつまで?義務化の罰則は?
登記はいつまでにやればよいでしょう。罰則はありますか?
相続登記は原則、取得を知った日から3年以内に申請が義務です。正当な理由なく怠ると過料(10万円以下)の対象になり得ます。詳細は法務省のQ&Aをご確認ください。(相続登記の申請義務化に関するQ&A)
居住権を設定した場合も、建物の権利関係(負担付所有権と居住権)を登記で明確にしておくことが必須です。
生命保険契約照会制度:2026年4月から料金改定
保険の有無が分からない時は、生命保険協会の「契約照会制度」で国内の生命保険会社横断で契約の有無を確認できます。2026年4月から平時利用の料金が改定され、Web申請6,000円/書面申請7,000円(いずれも税込)になります。制度案内と料金改定の一次情報はこちら。(生命保険契約照会制度のご案内)/(利用料金改定のお知らせ(PDF))
実践ステップ:60代夫婦の相続設計
- 1受取人の棚卸し:配偶者・子に分ける基本と、非課税枠の最大化(500万円×法定相続人)を前提に金額を調整する
- 2居住権の付与方法:遺言/遺産分割協議/死因贈与の選択肢を比較し、登記までの段取りを司法書士と確認する
- 3小規模宅地の適用確認:居住継続・面積・同意の要件を税理士とチェックし、評価明細書で按分を作る
- 4相続登記の期限管理:義務化に対応し、3年以内に申請完了。分割が長引く時は相続人申告登記の手当てを検討
- 5照会・書類の整備:契約照会制度の準備、保険証券・死亡診断書など請求書類を家族で共有して請求漏れを防ぐ
まとめ:重要ポイント
- 1受取人固有財産の生命保険は現金化が早く、相続税の非課税枠500万円×法定相続人で節税が可能
- 2配偶者居住権は評価圧縮と居住の継続に有効だが、譲渡不可・維持費は居住権者負担という性質を理解する
- 3**小規模宅地等の特例(330㎡まで80%減)**は居住継続の要件確認と面積按分の実務が肝
- 4相続登記は3年以内に義務化。正当な理由なく怠ると過料の可能性があるため、段取りを早めに
- 5保険の有無不明時は生命保険契約照会制度を活用。2026年からの料金改定に留意して早めに準備
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