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【2025年9月更新】法人保険 退職金相殺は不可?税務の正解|損金と源泉の判断基準

更新:
河又 翔平 (保有募集人資格:一般課程・専門課程・変額課程)
執筆者河又 翔平 (保有募集人資格:一般課程・専門課程・変額課程)
【2025年9月更新】法人保険 退職金相殺は不可?税務の正解|損金と源泉の判断基準
法人保険
退職金 相殺
解約返戻金 税務
役員退職金 損金
退職金 源泉徴収
功績倍率
法人税基本通達

導入:なぜ“相殺”で迷うのか

法人保険の解約益で退職金を賄うと、税金はどうなる?——実務では「相殺できる/できない」の情報が飛び交います。結論はシンプルです。帳簿上の直接相殺はできませんが、同一事業年度内で収益(保険金・返戻金)と費用(退職金)が同時に発生すれば、損益は結果として中和します。本稿は、誤解の多い 退職金相殺 を、会計と税務(損金・益金・源泉)に分けて2025年の一次情報で整理し、段取りと書類、税務調査で見られる論点まで実務で役立つ形に落とし込みます。

この記事で解決できること

  • 1
    帳簿相殺が不可な理由と、同年度内で損益が中和する条件を理解できる
  • 2
    解約返戻金・死亡保険金の会計/税務処理と退職金の損金算入要件がわかる
  • 3
    源泉徴収の実務(申告書有無での違い・納付期限)を押さえられる
  • 4
    契約形態(法人受取/名義変更/遺族受取)ごとの税務リスクを把握できる
  • 5
    税務調査で問われる功績倍率・手続不備のNGを具体例で回避できる

結論と前提:帳簿相殺は不可、税務は同年度で結果相殺

会計上、解約益や保険金という収益と退職金という費用は性質が異なるため、仕訳を省略してネット計上することはできません。収益と費用を総額で記録したうえで、当期損益に反映します。一方、税務計算では、同一事業年度内に 解約返戻金(または死亡保険金)の益金計上と退職金の損金算入が並立すれば、課税所得は結果として圧縮されます。したがって「保険金で退職金を払えば法人税はかからない」は半分正しく、半分誤り。正しくは「同年度内に益金と損金が並び、結果として課税所得が出ない」のであって、記録や手続きを飛ばすことはできません。

相殺は“できる”?“できない”?

解約返戻金1,000万円を受け取り、同額の役員退職金を払います。相殺仕訳でゼロにして良いですか?
河又 翔平 (保有募集人資格:一般課程・専門課程・変額課程)
相殺仕訳は不可です。1,000万円は保険金収入(益金)、退職金1,000万円は退職金費用(損金)で総額計上してください。そのうえで当期の課税所得がゼロに近づく、という理解が正解です。

会計と税務の基本線:総額計上と当期認識

保険金・返戻金の受取は収益として総額計上、退職金は費用として計上します。2019年改正後、定期・第三分野で前払部分が相当多額(最高解約返戻率50%超)の契約は、保険料の一部が期間按分や資産計上となる取扱いが導入されています。保険料の基本線は、受取人区分と返戻率区分で変わる点を押さえてください(令和6年時点の整理は[No.5364 定期保険及び第三分野保険の保険料の取扱い]で確認できます)。リンク: (No.5364 定期保険及び第三分野保険の保険料の取扱い(令和元年7月8日以後契約分))

退職金の損金算入と“当期に確定”の要件

退職金は、当期に支給額が確定し、実際に支払う(または適正な未払計上を行う)ことで損金算入が可能です。役員退職金は株主総会など正当な機関の決議で金額が具体的に確定していることが前提です。個人側では、退職所得の収入すべき時期は原則退職日ですが、役員退職金は「退職後に決議があった日(または金額確定日)」とされます。年度またぎを避けるスケジュール設計が重要です。リンク: (No.2728 退職所得の収入金額の収入すべき時期)

退職金の源泉徴収と個人課税:実務の要点

退職金は支給時に源泉徴収が必要です。退職者から「退職所得の受給に関する申告書」を受理していれば、退職所得控除と1/2課税(短期・特定役員の例外あり)に基づき税額を計算。未提出なら支給額の20.42%を源泉徴収し、本人が確定申告で精算します。納付は原則翌月10日まで。制度と計算手順は国税庁のタックスアンサーが実務的です。リンク: (No.2732 退職手当等に対する源泉徴収)(No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得))
重要な用語のポイント
  • 退職所得控除:20年以下は40万円×年数(最低80万円)、20年超は800万円+70万円×超過年数。
  • 特定役員退職手当等:役員等勤続5年以下分は1/2課税の適用なし(令和4年以降)。
  • 源泉納付期限:原則、支給月の翌月10日。
河又 翔平 (保有募集人資格:一般課程・専門課程・変額課程)
損益の“相殺”は仕訳ではなく段取りで作る——同一年度に収益と費用を正しく並べる設計が8割です。

契約形態別の税務リスク:標準型・名義変更・遺族受取

標準型(法人契約・法人受取・法人から退職金支給)では、保険金・返戻金は益金、退職金は損金。金額は同業類似水準や勤続・地位に照らした“適正額”の根拠が必要です。名義変更(契約者の個人への移転)を伴う現物支給は、時価(返戻金相当額)での経済的利益の付与と評価されやすく、給与課税や退職所得課税の判断、法人側の譲渡損益の認識など論点が多くなります。税務研究では「法人から従業員に譲渡された保険契約の課税は、雇用関係に基づく経済的利益として把握する」枠組みが示されています。リンク: (法人から従業員に譲渡された生命保険契約に関する課税の在り方)
死亡時に遺族が受け取る場合は、契約設計により退職所得や相続税の非課税枠(500万円×法定相続人)といった別ルールが関わります。誰が契約者で、誰が受取人かによって課税が大きく変わるため、事前の設計と書面整備が不可欠です。

実行フローと必須書類チェック

  • 1
    退職金規程の整備:算定方式(功績倍率等)と上限、例外(特別功労加算)の明記
  • 2
    決議と確定:株主総会等で金額・支給日を決議し、議事録・辞令を作成
  • 3
    スケジュール設計:保険解約(または満期)と退職・決議・支給を同年度内に配置
  • 4
    資金繰り:源泉税相当額の現金手当て(相殺でも現金納付が必要)
  • 5
    仕訳と証憑:保険金は収益、退職金は費用で総額計上。証憑は電子保存基準を満たす

税務調査で見られる論点とNG:判例が示す基準

最も問われるのは、退職金額の“適正性”と決議・手続の適時性です。東京地裁は、同業類似の支給状況を基に「功績倍率」の平均を指標としつつ、個別の功績を踏まえた幅を認める一方、超過部分の損金不算入を是認しました(東京地裁平成29年10月13日判決:法人税更正処分等取消請求事件)。判決文は、平均功績倍率の使い方、決議・書面の重要性を具体的に示しています。リンク: (判決文PDF)
NGの典型
  • 解約益の額に合わせて退職金を機械的に設定(積立額=適正額ではない)
  • 形式的退任(実質継続関与)や議事録不備、未払計上の放置
  • 名義変更時の評価誤りや源泉徴収漏れ

2025年時点の最新トピックまとめ

  • 法人保険の保険料区分は、2019年の通達改正後のルールが定着。最高解約返戻率50%超等は前払部分の取扱いに注意(上記[No.5364]参照)。
  • 退職所得の短期優遇縮小は継続(令和4年以降、特定役員退職手当等は1/2課税なし)。源泉計算や勤続年数のカウント方法は最新のタックスアンサーに従う(上記[No.2732/No.1420])。
  • 書面から電子へ:退職所得申告書の電磁的方法提供も条件付きで可能に([No.2732]の注記)。運用負担の軽減と同時に、証跡の正確性がより重視されています。

名義変更(現物支給)の税務が不安

退職時に契約者を本人へ変更し、保険を“現物支給”で渡すのは有利ですか?
河又 翔平 (保有募集人資格:一般課程・専門課程・変額課程)
一概に有利とは言えません。名義変更時の時価(返戻金相当額)で経済的利益が発生し、退職所得や給与課税の判定、法人側の譲渡損益など複数の論点が動きます。評価・源泉・法人仕訳まで漏れなく設計できるかが分かれ目です。税理士と事前に設計しましょう。

FAQ:現場で多い3つの疑問

Q. 退職前に保険を解約し、退職金支給が翌期になったら? A. 同一年度での損益中和はできません。退職金の損金算入は金額確定・支給(未払計上含む)が要件。収入・支出の時期管理が肝要です([No.2728]参照)。
Q. 申告書を出し忘れた退職者がいる場合の源泉は? A. 受給申告書未提出なら20.42%で源泉、本人の確定申告で精算します。納付期限は原則翌月10日([No.2732])。
Q. 解約せず名義変更にしたとき、評価はいくらで見る? A. 通常は名義変更時点の解約返戻金相当額が時価の目安です。評価と課税関係(退職所得か給与か)、法人側の譲渡損益の整合を同時に確認してください(上記研究論文リンク参照)。

まとめ:重要ポイント

  • 1
    帳簿相殺は不可。収益と費用を総額計上し、同一年度内の“段取り”で損益を中和する
  • 2
    退職金は当期に金額確定+支給(または適正な未払計上)で損金。役員は決議書類が命
  • 3
    源泉徴収は申告書の有無で計算が変わる。未提出は20.42%、納付は翌月10日が原則
  • 4
    金額の根拠は功績倍率など同業類似の客観資料で。過大部分は損金不算入となり得る
  • 5
    名義変更・遺族受取など形態差で課税は大きく変わる。評価・源泉・法人仕訳を一体設計

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