【2025年9月更新】法人保険 損金ルール早見表|50%・70%・85%判定と経理手順
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執筆者河又 翔平 (保有募集人資格:一般課程・専門課程・変額課程)

法人保険
損金算入
解約返戻率
30万円特例
85%区分
電子帳簿保存法
税務調査
はじめに:なぜ今“損金ルール”を総点検するのか
決算ごとに保険料の処理で迷う、税務調査での説明が不安——そんな経理・財務の悩みを、今日で区切りにしましょう。2019年の通達改正以降、法人保険は「返戻率の高さ=前払い部分の大きさ」という考え方で処理します。つまり、何となくの“全額経費”は通用しません。本稿は、区分の判定から仕訳、台帳整備、調査対応までを1本でつなぎ、明日から迷わない実務の型を提示します。まず押さえるべきキーワードは 損金算入 の可否を決める「最高解約返戻率」と、少額時の「30万円特例」です。
この記事で解決できること(読了後にできる行動)
- 1自社契約を50%・70%・85%のどれに当てはめるかを即判定できる
- 230万円特例の可否を“被保険者ごと合算”で判定できる
- 3短期払・一括払の期間按分と例外(ゼロ返戻型の特例)を区別して仕訳できる
- 4解約・満期・死亡時の損益仕訳を台帳ベースで一貫管理できる
- 5税務調査で求められる資料セットと説明の順番を準備できる
2019年改正の骨子と2025年の実務環境
2019年の法人税基本通達改正で、保険期間3年以上の定期・第三分野で“最高解約返戻率が50%を超える”契約は、支払保険料の一部を資産計上し、所定の時期に取り崩す方式に統一されました。以後、金融・税務当局は、節税を主目的とする商品や販売手法の監視を強化しています。とくに2022年には、商品審査・モニタリング段階での国税庁との連携強化が公表され、販売実態の情報募集も行われています。(節税(租税回避)を主たる目的として販売される保険商品への対応における国税庁との更なる連携強化について) に一次情報があります。2025年9月時点で新たな通達改正は出ていませんが、実務では改正趣旨に沿った処理・説明の整備がより重要になっています。
早見:50%・70%・85%の区分と“どこまで当期費用にできるか”
区分の物差しは契約ごとの「最高解約返戻率」です(保険期間中の最大返戻率)。国税庁タックスアンサーの整理では、50%超70%以下の契約は当期分支払保険料の40%を資産計上(60%損金)、70%超85%以下は60%を資産計上(40%損金)。取り崩しは保険期間の75%経過後から期末まで均等です。85%超はより厳格で、当期分の70%(開始10年までは90%)を資産計上し、最高返戻金のピーク終了後に取り崩します。資産計上期間の下限は原則5年(保険期間10年未満は50%経過時点まで)という“足切り”もあります。詳しい算式・期間の定義は、国税庁の (No.5364-2 定期保険及び第三分野保険の保険料(前払部分あり)の取扱い) を確認してください。この区分で“どれだけ今期に落とせるか”が決まります。なお本文では「最高解約返戻率」を 解約返戻率 と略記します。
30万円特例は複数契約でも使える? 合算の線引きは?
役員と従業員の医療・定期を何本か契約しています。保険料が小さいものは30万円特例で全額損金にしたいのですが、合算はどう見るべきですか?

判定は“被保険者ごと”に、年換算保険料相当額の合計で行います。最高解約返戻率が70%以下の定期・第三分野で、一人あたり年30万円以下なら特例適用で全額損金。さらに、ゼロ返戻型で“払込期間が保険期間より短い”契約に限っては、令和元年10月8日以後の契約で一人あたり30万円以下なら当期全額損金処理が認められます。根拠は (No.5364 定期保険及び第三分野保険の保険料(前払部分なし)の取扱い) の注書きです。被保険者Aさんに2本あるなら、その2本の“年換算”を合算して30万円以下かを見てください。
迷わない判定3ステップ(境界値の考え方つき)
ステップ1:設計書・試算表で“最高”返戻率を確認し、50%以下/50%超70%以下/70%超85%以下/85%超のいずれかに分類します。境界値は「超える/以下」で区分します(例:ちょうど70.0%は「70%以下」区分)。
ステップ2:死亡・満期(給付金)受取人を確認します。法人受取なら上記区分の資産計上ルールが基本。遺族や本人受取の養老型は、1/2損金+1/2資産など別ルールです(後述)。
ステップ3:払込と保険期間のズレを確認します。掛け捨てでも“短期払(一括・前納含む)”であれば、その前払い分は期間按分が原則です(ゼロ返戻型の30万円特例に当てはまるときは例外)。判定・算式は (No.5364-2) の定義に従い、資産計上期間の“最短5年(または期間の50%)”ルールも合わせてチェックしましょう。
経理処理の型:資産計上・取崩し・仕訳の考え方
区分ごとに「当期分支払保険料の額(その期に対応する保険料)」を損金と資産に按分します。50%超70%以下は“40%資産/60%損金”、70%超85%以下は“60%資産/40%損金”。取り崩しは保険期間の75%経過後から均等。一方、 85%超 は当期分の70%(開始10年までは90%)を資産に積み、最高返戻金ピーク後に均等で費用化します。解約・満期・死亡で現金を受け取る際は、受取額と帳簿上の保険積立金との差額が益金(雑収入)または損金になります。仕訳は保険会社の税務計算表に寄せるのが実務的。毎期の“積み増し・均等取崩し・期末残高”が一目で追える台帳を用意しておきましょう(取崩し開始の判定は日付ベースで厳密に)。根拠の算式・期間は (No.5364-2) に準拠します。

節税は“無くなる”のではなく“遅らせる”だけ。出口(解約・満期・死亡)までの設計と記録が、結局は一番の防御になります。
グレーゾーン対策:払済変更・名義変更・給与課税の火種
払済変更(以後の保険料を止める)や契約者・受取人の名義変更は、形式上ルール内でも“最初から出口ありき”だと疑義が生じます。とくに、役員や特定社員だけを対象に、遺族や本人を受取人とする福利厚生名目の契約は、会社負担分がその人の給与として課税されうる点に注意が必要です。養老の基本取扱いは、両受取人が法人なら全額資産、遺族×法人のハーフタックスなら1/2損金+1/2資産、遺族受取は給与課税です。一次情報は国税庁の (No.5363 養老保険の保険料の取扱い) にまとまっています。意図・経緯・稟議の記録を残し、“福利厚生の合理性”を説明できる設計にしましょう。
税務調査に強い資料セット(チェックリスト)
- 1契約書・保険証券・しおり/約款・年次の返戻推移と最高返戻率が分かる試算書
- 2税務判定シート(区分・資産計上割合・取崩開始期・根拠条項の引用)
- 3保険料積立金台帳(期首残・当期計上・取崩・期末残の推移)
- 4解約・満期・死亡時の仕訳根拠(受取額と積立金残の突合)
- 5電子保存の体制(メール請求書・証憑の保存要件は 電子帳簿保存法 の一問一答を参照)
電子保存の最新要件リンク(実務で使う場面)
税務調査では“請求書・交付書類の保存形態”を問われる場面が増えています。メール添付の明細やWeb請求は電子取引に該当するため、整備不十分だと“形式否認”のリスクも。保存要件・運用のQ&Aは国税庁の (一問一答(Q&A)) が最新です。実務では、契約ごとに「設計書・試算表・税務計算表・仕訳」と外部証憑をひと束で電子フォルダ管理し、年度フォルダへコピーする運用が負担少なく回ります。
ケース別ミニシミュレーション(数字は一例)
例1:役員長期平準定期(最高返戻率72%・期間20年)。年払100万円。各期の損金は40万円、資産計上は60万円。15年(期間の75%)経過後〜20年まで、累計積立を均等取崩し。ピーク前に解約すると益金が出やすく、ピーク後は損金化が先行しやすい。
例2:全社員医療(70%以下・年換算20万円×10名)。“被保険者ごと合算”でも全員が30万円以下のため、当期全額損金で処理可能。翌年度に増員がある場合は年換算の再判定を忘れずに。
例3:85%超タイプ(期間15年・年払200万円)。当初10年間は当期分の90%=180万円を資産計上、残り10%=20万円のみ損金。11年目以降は70%資産/30%損金に切替。最高返戻金ピーク後に均等で取崩し。資金繰り影響(キャッシュアウトは200万円、損金は20〜60万円)を必ず可視化する。
短期払の掛け捨てでも“全部費用”にしてよい?
掛け捨てで解約返戻金のない医療保険を5年で前納しました。返戻金ゼロなら全額費用にできますか?

原則は期間按分です。ただし、令和元年10月8日以後契約・“払込期間が保険期間より短い”ゼロ返戻型で、一人あたり年30万円以下に収まる場合は、当期全額損金処理が認められます。詳細は (No.5364) の注書きをご確認ください。該当しない場合は、当期分支払保険料の考え方で各期に配分しましょう。
当局動向と2025年の実務メモ
“節税主目的”の募集やスキームは、商品審査・販売の両面で引き続き注視されています。払済変更や名義変更を前提にした設計は、形式適合でも“目的適合性”の説明が要る時代です。社内では、加入目的(事業保障・福利厚生・退職給付準備など)と、解約時の資金使途・税務処理方針を稟議・取締役会議事録に明示し、台帳と紐づけておく——これが調査でもっとも効く“説明力”になります。
まとめと次アクション:迷わない3ポイントと相談の使い方
判断ミスを防ぐ“3つの確認ポイント”——①最高解約返戻率の区分(境界は超える/以下)②受取人の設定(給与課税の芽を早期に摘む)③払込と保険期間のズレ(短期払の按分と特例)。ここまで整えば、仕訳も調査対応も自然に整います。個社の事情(役員構成・資金繰り・退職給付方針)に落とす段階は、専門家の二重チェックが安心です。
まとめ:重要ポイント
- 1最高解約返戻率で50%・70%・85%区分を判定し、資産計上割合と取崩開始(75%経過後)を機械的に適用する
- 230万円特例は“被保険者ごと合算”で年換算30万円以下かを判定し、ゼロ返戻型短期払の特例条件も併せて確認する
- 385%超は当期分の70%(開始10年までは90%)資産計上・最短5年の資産計上期間など通達の“足切り”を厳守する
- 4養老の受取人設定は給与課税リスクの起点。福利厚生の合理性と社内記録(稟議・議事録)を整える
- 5証憑・台帳は電子保存の要件を満たして体系化し、調査で即提示できる運用にする
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