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【2026年7月更新】退職金と一時払終身|60代の相続税3基準

更新:
山中 忠 (FP1級・証券外務員一種保持)
執筆者山中 忠 (FP1級・証券外務員一種保持)
【2026年7月更新】退職金と一時払終身|60代の相続税3基準
退職金
一時払終身
相続税
死亡保険金 非課税枠
iDeCo 退職所得控除
60代 資産運用
生前贈与7年ルール

退職金を受け取った後、預金のままでよいのか

60代で退職金を受け取ると、まず迷いやすいのは「普通預金に置いておくべきか」「運用するべきか」「家族に残す形を整えるべきか」という点です。まとまった資金が預金のまま残れば、将来の相続財産にそのまま含まれます。一方で、すべてを投資や保険に回すと、医療費、介護費、住宅修繕費、子どもへの一時的な援助などに対応しにくくなります。
そこで候補になるのが 一時払終身保険 です。保険料を一括で払い込み、死亡時に指定した受取人へ死亡保険金を残す仕組みで、相続税の非課税枠を使える可能性があります。ただし、退職金の税引後手取り、iDeCoや企業型DCの受け取り時期、NISAとの配分まで見ないと、かえって家計の自由度を下げることがあります。
この記事では、60代が退職金を一時払終身保険に回す前に確認したい3つの基準を、2026年7月時点の税制・制度に沿って整理します。

この記事で確認する3つの判断基準

  • 1
    退職金の税引後手取りを確認し、生活資金と予備費を先に確保します。
  • 2
    死亡保険金の非課税枠を、法定相続人の人数で具体的に計算します。
  • 3
    一時払終身、NISA、預金、贈与の役割を分け、資金を固定しすぎない設計にします。
  • 4
    契約者、被保険者、受取人の設定を確認し、所得税や贈与税とのズレを避けます。
  • 5
    家族が受け取りやすい形に整え、相続時の手続き負担も減らします。

基準1:退職金はまず税引後の手取りで考える

退職金は、通常の給与とは別に 退職所得 として計算されます。長年勤務した人に配慮した控除があり、国税庁の (No.1420 退職金を受け取ったとき) では、退職所得控除の基本計算を「勤続20年以下は40万円×勤続年数」「20年超は800万円+70万円×20年を超える勤続年数」としています。
たとえば勤続38年なら、退職所得控除は800万円+70万円×18年=2,060万円です。退職金が2,500万円の場合、原則として控除後の440万円の2分の1、つまり220万円が退職所得の計算対象になります。退職所得は原則として他の所得と分けて税額を計算しますが、実際の手取りは住民税、復興特別所得税、退職所得の受給に関する申告書の提出有無などで変わります。
保険や運用に回す金額は、退職金の額面ではなく、税引後の手取りから決めるのが安全です。会社から退職所得の源泉徴収票を受け取ったら、保険の申込前に必ず保管し、退職金、企業年金、iDeCoの受取記録と一緒に整理しておきましょう。

退職金をすぐ一時払終身に入れても大丈夫?

銀行に置いておくより、相続対策になるなら退職金を一括で保険に入れたいです。問題ありませんか?
山中 忠 (FP1級・証券外務員一種保持)
まずは生活費、医療・介護費、住宅修繕費として手元に残す金額を決めましょう。一時払終身は相続対策に使える一方、短期解約では元本割れする商品もあり、急な出費に弱くなる場合があります。

2026年はiDeCo・企業型DCの一時金との順番にも注意

2026年時点で見落としやすいのが、退職金とiDeCo・企業型DCの老齢一時金を受け取る順番です。財務省の (令和7年度税制改正の大綱) では、2026年1月1日以後にDCの老齢一時金を受け取り、その後に会社の退職手当等を受けるケースについて、前年以前9年内の老齢一時金を退職所得控除の重複排除の対象にする見直しが示されています。
簡単にいえば、DC一時金を先に受け取ってから比較的近い時期に会社の退職金を受け取ると、退職所得控除を思ったほど使えない可能性があります。会社退職金、企業型DC、iDeCo、小規模企業共済などを一時金で受け取る予定がある人は、受け取り年を時系列で並べてから、一時払終身保険へ回す金額を決めましょう。
退職金が振り込まれると気持ちが大きくなりがちですが、税金の精算や年金の受け取り方が固まる前に大きな契約を結ぶのは避けたいところです。少なくとも、退職金の手取り、年金見込額、DC・iDeCoの受け取り予定年、生活費の年間額を1枚にまとめてから判断することをおすすめします。
山中 忠 (FP1級・証券外務員一種保持)
退職金は人生でいちばん大きな臨時収入になりやすいお金です。だからこそ、増やす前に、減らさない設計を優先したいところです。

基準2:生命保険の非課税枠を正しく使う

一時払終身保険が相続対策で使われる大きな理由は、死亡保険金に相続税の非課税枠があるためです。国税庁の (No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金) では、被相続人が保険料を負担し、相続人が死亡保険金を受け取る場合、500万円×法定相続人の数までが非課税限度額とされています。
たとえば法定相続人が配偶者と子2人の合計3人なら、非課税枠は1,500万円です。退職金のうち1,500万円を一時払終身保険に充て、死亡保険金の受取人を相続人にしておけば、預金で残すより相続税の課税対象を抑えられる可能性があります。
一方で、相続税の節税だけを目的にしすぎるのは禁物です。生命保険文化センターの (2024年度 生命保険に関する全国実態調査 速報版) では、2人以上世帯の生命保険加入率は89.2%、世帯普通死亡保険金額は平均1,936万円とされています。すでに加入中の死亡保険がある家庭では、非課税枠を一時払終身だけで使えるとは限りません。既契約の死亡保険金額を確認したうえで、追加加入の必要性を判断しましょう。

一時払終身で確認したい契約設定

  • 1
    契約者と保険料負担者を、退職金を受け取った本人にそろえます。
  • 2
    被保険者を本人にし、本人死亡時に保険金が支払われる契約か確認します。
  • 3
    死亡保険金受取人を配偶者や子などの相続人に指定します。
  • 4
    孫を受取人にする場合は、非課税枠の対象外や相続税の2割加算に注意します。
  • 5
    すでに加入している死亡保険金と合算し、非課税枠を超える部分を確認します。

受取人指定は“争族”対策にもなる

預金は遺産分割協議の対象になり、相続人全員の話し合いが必要になることがあります。一方、死亡保険金は原則として受取人固有の財産と扱われ、指定された人が保険会社へ請求できます。葬儀費用や当面の生活費を特定の家族に渡したい場合、受取人指定は実務上の安心につながります。
ただし、極端に一人だけへ保険金を集中させると、他の相続人の不満や遺留分トラブルにつながることがあります。たとえば、長男だけを受取人にして1,500万円の保険金を渡し、預金や不動産の分け方を何も決めていない場合、残された家族の間で「なぜ長男だけなのか」という感情面の対立が起きることもあります。
節税だけでなく、家族関係と資金の渡し方まで含めて考えるのが60代の相続設計では重要です。可能であれば、保険の受取人、預金の分け方、不動産の扱い、遺言の必要性を同じタイミングで確認しましょう。

預金で残すより必ず相続税が安くなる?

法定相続人が3人なら、1,500万円までは必ず税金がかからないと考えてよいですか?
山中 忠 (FP1級・証券外務員一種保持)
死亡保険金の非課税枠は大きなメリットですが、受取人が相続人か、保険料を誰が負担したかで税目が変わります。また、すでに他の死亡保険金がある場合は合算して枠を使います。契約前に全体を確認しましょう。

基準3:NISA・贈与・預金との役割を分ける

退職金の使い道は、一時払終身だけではありません。2024年からのNISAは非課税保有期間が無期限となり、つみたて投資枠と成長投資枠を合わせた非課税保有限度額は1,800万円です。金融庁の (NISAを知る) でも、年間投資枠は最大360万円、成長投資枠は1,200万円までと説明されています。
ただし、60代のNISAは「長期で育てるお金」に向きます。近い将来に使う医療費や介護費まで投資に回すと、相場下落時に取り崩すリスクがあります。退職金の配分は、 預金はすぐ使うお金、一時払終身は亡くなった後に渡すお金、NISAは時間をかけて育てるお金 と分けると考えやすくなります。
たとえば退職金2,500万円、法定相続人3人、住宅ローンなしの家庭なら、まず生活費3〜5年分と医療・介護・住宅修繕の予備費を預金で確保します。そのうえで、既契約の死亡保険金を差し引いた非課税枠の範囲で一時払終身を検討し、残りの長期資金をNISAや定期預金に分ける、という順番が現実的です。
山中 忠 (FP1級・証券外務員一種保持)
60代の退職金運用では、利回りの高さよりも、いつ・誰が・何に使うお金なのかを先に決めるほうが失敗を減らせます。

生前贈与7年加算の時代は、保険との比較が大切

相続税対策では生前贈与も候補になりますが、2024年以降は暦年贈与の相続財産への加算期間が段階的に3年から7年へ延長されています。国税庁の (令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし) でも、相続開始前7年以内の暦年課税による贈与を相続財産に加算する見直しと、延長された4年間の贈与について総額100万円まで加算しない扱いが示されています。
そのため、60代後半以降で「毎年110万円ずつ贈与すれば十分」と考えるのは慎重にしたいところです。贈与は早めに始めるほど効果を見込みやすく、一時払終身は死亡時の受取人指定と非課税枠を使いやすいのが特徴です。
どちらがよいかを一律に決めるのではなく、年齢、健康状態、財産額、家族構成で組み合わせるのが現実的です。相続税がかかる可能性がある家庭では、暦年贈与、相続時精算課税、生命保険、遺言をバラバラに考えず、全体で見た手取りと家族の納得感を確認しましょう。

一時払終身の注意点:外貨建て・解約返戻金・健康状態

一時払終身保険には円建てと外貨建てがあります。外貨建ては予定利率が高く見えることがありますが、円で受け取るときに為替の影響を受けます。相続税評価や保険金請求時の円換算も関係するため、「保険金額が増えそう」という理由だけで選ぶのは避けたいところです。
また、加入直後の解約返戻金が一時払保険料を下回る商品もあります。退職後の生活費が想定より膨らんだり、介護施設の入居一時金が必要になったりしても、保険をすぐ現金化すると損失が出る可能性があります。商品によっては市場価格調整、為替手数料、解約控除などが関係するため、契約前に「いま解約したらいくら戻るか」「5年後、10年後はどうか」を確認しましょう。
高齢になるほど、健康告知や意思能力の確認も大切になります。70代に先送りすると、契約できる商品が限られたり、家族が本人の意思を確認しにくくなったりすることがあります。判断力がはっきりしているうちに、保険証券の保管場所、受取人、請求先を家族と共有しておくと安心です。

退職金からいくら保険に回すかの目安

退職金から一時払終身保険へ回す金額は、まず相続税がかかる可能性があるかで考えます。相続税の基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数です。法定相続人が3人なら4,800万円が基礎控除額になります。自宅、預金、有価証券、生命保険、退職金の残り、その他財産を合計しても基礎控除内に収まるなら、相続税の節税効果は限定的です。
その場合、一時払終身の目的は「相続税を減らす」よりも「受取人を指定してすぐ渡す」「葬儀費用や当面の生活費を準備する」といった実務面になります。逆に、相続税が見込まれる家庭では、死亡保険金の非課税枠500万円×法定相続人の数を上限の目安にしつつ、既契約の死亡保険金、配偶者の税額軽減、二次相続まで確認すると効果が見えやすくなります。
目安としては、生活費の3〜5年分、医療・介護の予備費、住宅修繕費を預金で確保したうえで、非課税枠の範囲内を中心に一時払終身を検討する流れです。退職金は一度保険に入れると自由に使いにくくなるため、「相続対策になるから全額保険へ」ではなく、使う順番と残す相手を先に決めてから契約しましょう。

まとめ:重要ポイント

  • 1
    退職金は額面ではなく税引後の手取りで考え、生活費・医療費・介護費の予備費を先に確保します。
  • 2
    2026年はDC・iDeCoの老齢一時金と会社退職金の受け取り順で、退職所得控除の使い方が変わる可能性があります。
  • 3
    一時払終身は死亡保険金の非課税枠500万円×法定相続人の数を使える可能性がありますが、既契約の死亡保険金も合算して確認します。
  • 4
    契約者、保険料負担者、被保険者、受取人の設定を誤ると、相続税ではなく所得税や贈与税の問題になることがあります。
  • 5
    退職金は預金、NISA、一時払終身、生前贈与に役割を分け、節税額だけでなく家族が受け取りやすい形まで整えましょう。

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